2020.12.24
夏に悩まされるさまざまな〝かゆみ〟。そもそも、かゆみはどうして起こるのでしょう。皮膚には触覚、温覚、冷覚、痛覚、痒覚などの感覚があります。触覚や温・冷覚に関してはそれらの刺激を受けとる知覚神経がはっきりしていますが、痒覚については詳しいメカニズムは判明していません。ただ、例えば、外界と接する皮膚や鼻の中はかゆみを感じますが、胃や腸がかゆい、ということはありませんよね。かゆみは、皮膚の表皮と真皮の境目にある独自の知覚神経に刺激が伝わって起こると考えられています。その刺激の一つとなるのがヒスタミンという物質。真皮に存在する肥満細胞から分泌されてかゆみの知覚神経を刺激し、その情報が神経回路を伝わって脳に届くとかゆみを感じます。つまり、皮膚そのものがかゆいのではなく、脳が〝かゆい〟と感じて初めてかゆみが生じるのです。
夏は蚊やノミ、ブユ、ダニなどの虫の発生、活動が活発になり、虫刺されに悩まされることが増えます。特に蚊は、どんなに防御したつもりでもいつの間にか室内でも刺され、ついポリポリ掻いてしまいます。蚊も通常は花の蜜や樹液を吸って生息していますが、産卵期の雌だけは栄養源としてタンパク質を必要とするため、血を吸うのです。あのかゆみは蚊の唾液によるもの。蚊は針のような口を皮膚に突き刺し、人に痛みを感じさせない麻酔作用や、凝血を防ぐ作用などの成分が含まれた唾液を注入し、それから血を吸います。その唾液が人の体内でアレルギー反応を起こすため、かゆく感じるのです。アレルギー反応には個人差があるため、かゆみがぶり返したり、症状が大きくなる人もいます。
でも、同じ場所にいても刺される人、刺されない人がいますね。蚊は人が吐き出す二酸化炭素や体温に反応します。飲酒後や運動後の人は呼気に二酸化炭素が増え、体温も上がっているので刺されやすくなり、また、大人より子供の方が体温が高めのため刺されやすくなるのです。さらに黒っぽい服装は蚊が認識しやすく、熱も吸収しやすいので蚊を誘引するようです。ちなみに、脳では〝かゆい〟より〝冷たい〟刺激の方が優先されるため、例えば右腕を刺されたら左腕を冷やすと一時的にかゆみが治まるそうです。一度お試しを。
乳幼児によくみられるあせもですが、夏場は大人でも油断できません。大量に汗をかいてそのままにしておくと、角質や汚れ、ホコリなどで汗腺が詰まり、発汗が妨げられます。すると皮膚内部に汗がたまってしまい、汗の刺激で炎症を起こすのがあせもです。乳幼児は体は小さいのに汗腺の数は大人とほぼ同じなので汗をたくさんかき、皮膚のバリア機能も未発達なため、あせもができやすいのです。
あせもには主に二つの型があり、かゆみはなく、白っぽい小さな水疱がたくさんできるのは水晶様汗疹(かんしん)と呼ばれます。これは皮膚表面に近いところに汗がたまったもので、数日で自然に治ります。一般的にあせもと呼ばれるのは、かゆみのある赤いブツブツができる紅色汗疹(かんしん)。こちらは炎症を起こしているので、ひどくなると抗炎症作用のある薬剤での治療が必要になる場合もあります。
あせもはまず予防が大切。汗をかいたら濡れタオルで拭いたり、シャワーを浴びたりして肌を清潔に保ちましょう。ただし、シャワーの浴び過ぎは皮膚のバリア機能低下につながるのでほどほどに。また、あせもにはベビーパウダーが良いとされますが、肌が濡れた状態でつけたり、つけ過ぎたり、できてしまったあせもにつけると、パウダーで汗孔や毛穴が塞がれてしまうので逆効果になることも。あせも予防には肌を清潔にした後、よく水分を拭き取って乾いたところへ薄くつけるのがコツです。汗は老廃物の排出や体温調節に重要な働きをしています。冷房で全く汗をかかないのも体に良いとはいえません。こまめなスキンケアと通気性の良い服装などで予防を心がけましょう。
皮膚のかゆみにもう一つ、いわゆる〝かぶれ〟があります。医学的には「接触皮膚炎」といいます。特に夏に増えるのが接触皮膚炎の一種である金属アレルギー。よく原因となるのはクロムやニッケル、金などです。クロムは意外にも皮革をなめす時に使われるので、鞄やベルト、腕時計などの革製品に残留していることがあります。アクセサリー類やベルトのバックル、ジーンズのボタンなどにはニッケルメッキが施されている場合があり、これらの金属が肌に密着しているところへ汗をかくと、その塩分で金属が溶け出し、アレルギーを起こすのです。夏は汗で衣類が密着することも多いので、下着やストッキングなどの化学繊維による接触皮膚炎が起こることもあります。また、強い紫外線の刺激が露出した肌にかゆみを引き起こすこともあります。かゆみが出たときは、その原因となるものを身に付けるのをやめる、または肌に直接触れないように工夫するのが賢明です。
皮膚の温度が上がったり、急な温度差があるとかゆみを感じやすくなります。入浴後、飲酒時、就寝前などは血行が良くなり、体温も上がるのでかゆみが増すことがあります。更に、掻いてかゆみの神経を刺激してしまうと神経ペプチドという物質が放出され、これがまた肥満細胞を刺激してヒスタミンを分泌させるという悪循環が起こり、掻けば掻くほどかゆみはひどくなるのです。掻きむしる前に冷やしたり、抗ヒスタミン剤などのかゆみ止めを塗って炎症を抑えましょう。
また、かゆみは内臓疾患の予兆として表れることもあります。原因不明のかゆみが続く場合は、一度医療機関で診てもらうことをお勧めします。
夏はたくさん汗をかくために皮脂膜が流れ落ちたり、強い紫外線で皮膚の抵抗力が低下し、バリア機能も弱まりがち。細菌やカビが繁殖しやすい時季のため、掻き壊してしまうと二次感染も心配です。夏も基本的なスキンケアは怠らず、皮膚を健康に保ちましょう。そして、かゆみをグッと我慢する努力もお忘れなく!