2020.12.24
私たちの体をつくっている細胞ひとつひとつに必要な酸素や栄養を届けているのは血液です。血液は血球と呼ばれる細胞成分と、血漿と呼ばれる液体成分で構成 されています。血球とは、細菌やウイルスなどの外敵から体を守る働きをする白血球や、出血を止める役割をする血小板、そして酸素や二酸化炭素の運搬に働く赤血球などのことです。
これら血球は骨の中心部にある骨髄で、造血幹細胞という細胞からつくられています。血液中に一番多い赤血球もここで生まれ、血管へと送り出されます。赤血球は柔軟性が高いので全身の毛細血管までくまなく巡って酸素や二酸化炭素の運搬を繰り返します。
その酸素の運搬を担うのが赤血球の中の成分、ヘモグロビンです。ヘモグロビンは鉄を含む「ヘム」という赤い色素と「グロビン」というタンパク質からできています。ヘモグロビンがまず肺でたくさんの酸素と結合して酸素豊富な血液となり、全身を巡って体のすみずみまで酸素を届けることによって細胞はエネルギーを産生して活動でき、体は生命を維持しているともいえるのです。
しかし、赤血球も老化してくると柔軟性がなくなり、毛細血管を通ることができなくなってきます。全身に十分な酸素を届ける力がなくなってしまうというわけで す。すると脾臓や肝臓を通過する際に貪食細胞に捕らえられ、処理されます。こうして役目を終える赤血球の寿命は約120日と言われています。
そんな重要な働きをしている赤血球や赤血球に含まれるヘモグロビンの量が減ってしまうと、体中が酸素不足になってしまいます。それが「貧血」です。疲労感、 めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、頭痛、肌荒れなど、さまざまな症状が出ます。さらにその原因により、貧血にもいくつかの種類があります。
◆鉄欠乏性貧血…
ヘモグロビンをつくる材料である鉄が不足し、ヘモグロビンがうまくつくれなくなり、赤血球も小さくなったり、量が減ったりするために起こるもので、貧血の多くがこのタイプです。鉄が不足する要因は、食事からの鉄分摂取不足、胃腸での吸収不足、赤血球が破壊される疾患などがあり、また女性では生理や妊娠・出産等による出血があるため、男性より貧血になりやすいのです。胃腸や子宮の疾患、痔などによる出血も原因となる場合があります。
◆再生不良性貧血…
血液をつくる骨髄の働きが障害され、赤血球などの血球がつくられなくなることによる貧血です。原因不明なことも多く、難病指定を受けている疾患です。
◆巨赤芽球性貧血…
骨髄で赤血球をつくるためには鉄だけでなく、タンパク質、ビタミンB12や葉酸などの栄養素も必要ですが、それらの不足により赤血球がうまくつくられず、または異常な赤血球ができると未成熟で死んでしまうことも多いため起こる貧血です。
◆溶血性貧血…
赤血球の膜が寿命よりも早く壊れてヘモグロビンが流れ出してしまい、新しい赤血球の産生が追いつかないために起こります。「スポーツ貧血」と呼ばれるアスリートの貧血もこのタイプが多いといいます。例えば、マラソンなどの激しい運動では、足裏への衝撃によって赤血球が壊れてしまい、流れ出た鉄分が汗とともに失われ、鉄不足になるのです。
この他にも、他の疾患の症状として貧血になることもあります。例えば、腎臓疾患になると赤血球の生成を促すエリスロポエチンというホルモンが出なくなり、 赤血球がつくられなくなるため貧血になることも。貧血によって他の病気の発見につながることもあるので、貧血を甘くみてはいけません。
血液検査では赤血球数やヘモグロビン値に異常がないのに、貧血の症状が出ている方はいませんか。そのような時、「フェリチン」という値も調べてみると低値 を示していることがあります。フェリチンは鉄を蓄えることができるタンパク質で、血液中の鉄分が足りなくなってくると鉄分を放出して鉄分量を調整します。血液や筋肉にある鉄は酸素の運搬に働く「機能鉄」と呼ばれ、肝臓や脾臓、心臓などにある鉄は体内の鉄量の非常時に備える蓄えとして「貯蔵鉄」と呼ばれます。私たちの体の中には2~5gの鉄が存在 しますが、その約2/3がヘモグロビンの中に含まれ、1/4はフェリチンに蓄えられているのです。
何らかの原因で血液中の鉄分が不足してきても、貯蔵鉄であるフェリチンが使われるため、赤血球やヘモグロビンの値が保たれるわけです。つまり、フェリチン値が低くなっているということは体の鉄不足を意味するのです。一見、貧血症状がなくても、貯蔵鉄を使い果たし、体が酸欠状態になる一歩手前ということです。フェリチンは常に正常な値を保ちたい、大事な指標です。
貧血は先天的な体質が原因のこともありますが、食生活による影響が大きいものです。ダイエットをしている人、偏った食材・メニューの食事が多い人、食の細 い高齢者などでも必要な栄養素が摂れていないことがあるからです。
貧血の対策として鉄分の摂取は不可欠です。ただ、鉄分豊富な食材だけ食べれば良いかというとそれだけではありません。食品に含まれている鉄には「ヘム鉄」 と「非ヘム鉄」という2種類があり、ヘム鉄が多いのは、レバーをはじめとする肉類や魚類などです。一方、非ヘム鉄が多いのは野菜、豆類、穀類、海藻、卵、乳製品などです。この2種類の鉄には吸収率に大きな差があり、ヘム鉄は吸収率が10~30%近くあるのに対し、非ヘム鉄は数%しかありません。非常に吸収しにくい栄養素なのです。とはいえ、非ヘム 鉄の多い野菜などもビタミンCやカルシウムと一緒に摂ると吸収率が高まります。食後にビタミンC豊富な果物を食べたり、ジュースを飲んでも効果はあるそうです。
体にとって大切な鉄ですから、老化した赤血球が処理される際、ヘモグロビンの中の鉄はリサイクルされています。でも、常に赤血球の新陳代謝が活発に行われるためには、鉄だけではなく、赤血球やヘモグロビンをつくる材料となるタンパク質やビタミンB12、葉酸などのビタミン類も食事からバランスよく摂取しなければいけません。毎日の食事で1日1日、必要な栄養素を摂ることが肝心なのです。