2020.12.24
まず、西洋医学では風邪のことを最初から病気として捉え、「かぜ症候群( Common cold ; 普通感冒)」と「インフルエンザ( 流行性感冒)」を区別して、いずれも保険診療の病名として採用しています。風邪の原因として前者が一般ウイルス( ライノウイルス、アデノウイルスなど)、後者は特異ウイルス(インフルエンザウイルス) がそれぞれ関与していることはよく知られています。
かぜ症候群は年間を通してみられ、多くは休養してよく眠れば短期間で回復しますが、インフルエンザは毎年12月頃から3月頃までが流行期間とされ、ワクチンや抗ウイルス剤( タミフル、他) などの医師による治療が必要とされます。ともすると肺炎や脳症などに及んで生命に係わることもあり、特に現在では鳥インフルエンザウイルスによる新型インフルエンザへの対策が注目されています。
風邪は漢方薬が得意とする病のひとつです。漢方ではウイルスの認識はありませんから、かぜ症候群とインフルエンザを分ける考えはなく、インフルエンザも含めて風邪は、急性の発熱性の感染症を指す〝傷寒〟として漢方薬での治療が行われます。ちなみに「風邪」という言葉はもともと漢方用語であり、風のように外部( 病因論の外因) から来て、風のように去っていく病だから「風邪」と名付けたようです。
風邪のひき始めは一般に寒さが原因と考えられていますが、漢方でも風邪の病因は外邪(がいじゃ)(外因) のひとつである冬の〝寒邪〟が体表から侵入して人を害します。この場合、もし人体の「気」が減少・減退した「気虚」の状態でなければ本格的な風邪になることなく、人体に本来備わっている自然良能(ホメオスターシス)が発揮されて、未病が治り、健康が回復されるわけです。
未病を治せば風邪をひかない
したがって漢方では、寒邪が直接人体を侵さないように、これを避けることを風邪の予防法の第一に考えています。さらに強調しているのは、普段から体内の衛気( 正気) を養い、抗病力( 免疫力) を強化し、寒邪に侵入するすきを与えないことが重要な寒邪防衛対策であるということです。冬は〝閉蔵〟といい、万物の活動が低下し沈滞する時期なので、早めに寝て遅めに起きること、厳寒を避け、体温に注意して乾布摩擦などで皮膚を引きしめ、体内エネルギーを温存する(蔵気を養う) ことなど、具体的な根拠と実践法が冬の養生法として古代中国の医書「黄帝内経」にも記述されています。
さらに漢方では、特に風邪の場合、気力、体力がしっかり保有されている発病初期の治療を最重視します。そのため、かぜ症候群であろうがインフルエンザであろうが、風邪のひき始め(初期、急性期)にタイミング良く四診で適確に証(状態)を捉えます。発病が寒気( 悪寒) で始まり、間もなく発熱し、やがて頭痛や筋肉痛が生じてくるという初期症状がすべての傷寒( 急性熱病) の始まりと考え、この病期を〝太陽病〟と名付けて、漢方薬を用いて治療を開始します。その後、経過する病態の変化を、少陽病→大陰病→少 陰病という病期の証で捉えながら、その時点で対応する漢方薬を採用して適切な治療を進めるわけです( 表参照)。
中国古典の「傷寒論」では太陽病に大多数のページを割いて論述しています。当時はウイルス、細菌、感染症などの知識はなかったわけですから、病人のありのままの病状を観察( 四診) して、感冒の初期治療法を詳しく記述したのではないかと考えられます。したがって、太陽病の時期に漢方治療を適切に行えば、たとえインフルエンザでも順調に回復させることができるのではないかと私は思っています。
昔から「風邪は万病の元」と言い伝えられていますが、事実、私の長年の臨床経験でもがん、白血病、リウマチ、膠原病、脳炎や髄膜炎などの発病初期はいわゆるか ぜ症候群のような症状を示しています。それらの原因はさまざまなストレスで心身のホメオスターシスが乱れ、その結果、気力、体力、免疫力が低下するため、ウイルスや細菌感染、その他の因子が発病のキッカケとなっているように私は感じています。
風邪に対する心得
風邪が流行っても、ひく人とひかない人がいます。なかには年中かぜをひいている人もいますが、やはり風邪はひかないに越したことはありません。風邪は未病のうちに治せば万病の予防にもなります。そのためには、普段元気な時から休養や保温、うがい・手洗い・マスクなどの生活習慣を心がけ、食養生、呼吸法、運動法をご自分でも工夫し、さらに気構え、身構え、心構えをしっかり心得て風邪に対応しますと、万病も予防できるのではないでしょうか。