2020.12.24
健康診断でコレステロールや中性脂肪の数値が高く、「脂質代謝に所見あり」と判定され、生活習慣の改善を勧められた経験を持つ人も多いのでは? コレステロールに善玉や悪玉があることは良く知られていますが、総コレステロールというのもあり、LDL、HDL、どっちがどっちだかよくわからない…、とにかく数値は高くない方が良いんだろうな、と思っている人もいるかもしれません。ちなみに、LDLが悪玉で、HDLが善玉です。
血液中に脂質が多い状態は動脈硬化を起こす危険があるとして問題視され、以前は「高脂血症」と呼ばれていました。しかし、善玉コレステロール値が低すぎても悪影響があることや、総コレステロール値よりも悪玉コレステロール値を基準にしたほうが動脈硬化性疾患への影響が正しく診断できることがわかり、動脈硬化学会は2007年にガイドラインを訂正。名称も高い値のみを問題にするのではなく、血液中の脂質のバランスが悪い状態を示す「脂質異常症」と呼ばれるようになりました。
コレステロールは〝体に悪い成分〟というイメージがありますが、実は、私たちの体を形づくる何十兆個もの細胞一つ一つの細胞膜の材料となる、とても重要な成分です。細胞膜だけでなく、性ホルモンなどのステロイドホルモンや胆汁酸の材料にもなり、生命活動を支えています。コレステロールの70~80%は肝臓で作られ、食事から得ているのは約20%程度ですが、食事から多く摂ると肝臓で作る量が減る、というように通常は体内のコレステロール量は一定に調節され、使われなかった分は排泄されたり分解されたりもします。それでも摂取量が過剰だと、余ったコレステロールが血液中に増えてしまうのです。
中性脂肪はトリグリセライドとも呼ばれます。こちらも悪者扱いされがちですが、活動のエネルギー源として欠かせない存在です。食べ物に含まれる動物性脂肪や糖質から作られます。エネルギーとしてすぐに使われなかった分は肝臓や皮下脂肪、内臓脂肪に予備エネルギーとして蓄えられ、体の保温や内臓保護に役立っています。しかし、過剰に蓄積されると肥満や動脈硬化性疾患などを招く要因になってしまいます。また、アルコールは肝臓での中性脂肪の合成を促進します。肝臓に中性脂肪が溜まり過ぎると脂肪肝→脂肪性肝炎→肝硬変へと進むことがあるので要注意です。
その他にも、細胞膜の構成成分となるリン脂質、中性脂肪が分解されてでき、エネルギー源となる遊離脂肪酸などの脂質が血液中に含まれています。どの脂質も本来、体に必須の成分です。
酸素や栄養素は血液によって体のすみずみの細胞にまで届けられています。もちろん食事から摂った脂肪も酵素などによって何段階かの分解や乳化を経て消化・吸収された後、肝臓でコレステロールや中性脂肪、リン脂質、脂肪酸などに代謝されて血液で全身に運ばれます。しかし、そのままでは血液と脂質は水と油ですから、脂質は血液にうまく溶け込むために血漿中のタンパク質と結合した「リポタンパク」という形で存在しています。LDLとHDLではタンパク質の種類が違うのです。
悪玉と呼ばれているものの、LDLコレステロールは全身の細胞に必要なコレステロールを運ぶ重要な役目を果たしています。一方、各細胞で使われずに余ったコレステロールを回収して肝臓に戻す働きをするのでHDLコレステロールは善玉と呼ばれているのです。血液中の中性脂肪が増えると、善玉が減る関係にあり、そうなると余ったコレステロールを回収する働きが低下するため、悪玉が増えてしまいます。この血液中の脂肪のバランスが崩れるのが「脂質異常症」で、①悪玉コレステロールが多過ぎるタイプ、②善玉コレステロールが少な過ぎるタイプ、③中性脂肪が多すぎるタイプなどがあり、これらが複合している場合もあります。
血液中の脂質のバランスの崩れは血管の健康状態にも影響します。血管をホースに例えてみると、ドロドロの脂(あぶら)まみれの水が流れていればホース内は汚れたり、詰まったり、傷つきやすくなったり、劣化もしますね。それと同じようなことが血管内で起こるのが動脈硬化です。本来必要なものとして全身に運ばれたのに、多過ぎて使われなかった悪玉コレステロールが血液中に留まっていると、酸化されて血管壁を傷つけたり、血管内壁にもぐりこんで蓄積します。それによって血管が細くなったり、塞がれたりしてしまうのです。動脈硬化が進むと、その箇所から先に血液が流れにくくなって狭心症を起こしたり、さらに流れが途絶えると細胞の壊死を招き、心筋梗塞、脳梗塞など、命に関わる疾患をもたらします。問題なのは、どのタイプでもほとんど自覚症状がないことです。そのため、放置され、ひそかに動脈硬化が進行し、突然、脳梗塞や心筋梗塞などを発症するリスクが高まります。だからこそ、健康診断で血液中の脂質の状態をチェックすることが大事なのです。
遺伝的な体質から脂質異常症になることもありますが、大部分は食生活や運動不足、飲酒、喫煙などの生活習慣が関与しています。特に食事面の影響は大きいので、その改善には大きな意味があるのです。脂っこい物や甘い物、炭水化物食を控えるだけでなく、例えば、脂肪の吸着・排泄に働く食物繊維が豊富な野菜類、悪玉コレステロールを減らす働きがある青魚や大豆製品などを積極的に摂るようにしましょう。
また、運動不足が続くとエネルギーが消費されず、余った中性脂肪が体脂肪として蓄積されてしまいます。運動は血流を良くし、脂肪の代謝も活発になります。つまり中性脂肪や悪玉コレステロールを減らして善玉コレステロールを増やすことになり、動脈硬化予防に繋がるのです。食事療法に運動を組み合わせると、食事だけ改善するより効果が倍増するそうです。自覚症状がないからこそ、心筋梗塞などを発症してから後悔する前に健康診断の結果を真摯に受け止め、生活習慣を見直すことが大切です。